一期一会 みはるの部屋

正義はわれにあり

帰路 いかなごと御座候

三ノ宮を西へ過ぎると休日の車内は閑散となる

進行方向の座席に座り 窓の外を眺める

 

首都圏の鉄道は距離が短くて、時間がかかり、人が多く、座れても

進行方向には座れない

終点 約70キロほどの網干まで、1時間もかからずに行くことが出来る。

新快速と名付けられて走る、その電車で光輝く あおいあおい海を少し高いところから

見渡した

窓側に座り 肘を着き ペットボトルを置く事 これが当たり前だった事に気が付く

 

春を告げる魚介類の代表は

鰆 さわら

メバル 

ホタルイカ

初鰹

あたりだろうか

 

地元では春が訪れるこの時期には「いかなご」を何キロも購入し

自宅で「くぎ煮」をして、各所親戚に送る家庭が多かった

甘辛い醤油とショウガで煮込んだいかなごは 何杯でもごはんが進んだ

数年前

近年は不漁が続き、すっかり高級魚になってしまい、下手をすると

そんじょそこらの牛肉よりグラムの価格が上がってしまった

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母が作ったいかなご入りのお弁当をもって学校に通った

母が亡くなったあと、父が作ったいかなごは食べきれないほどの量で送られてきた

 

食べきれずに捨てた事

多いから!と父に送る量に注文をつけた事

その父は 数年前から台所に立つことが出来なくなった

 

同線の悪い台所 置き場所のないシンク

洗濯機とお風呂がつながった 炊事場

玄関の扉の塗料はささくれ立ち

ベランダと、呼べるほどのものではない洗濯干し場の

屋根は台風で飛ばされたまま

 

帰宅するたびにたばこのヤニを掃除しては数日だけで

すぐに実家を離れた

お父ちゃん きれいにせなあかんで と言いながら

便利な台所機能が備わって 乾燥機もある自宅へ

 

すこしづつ、開けられてない封筒が、新聞が、食材が増えていき

たまっていき、腐ってきていた

弱いお酒でそのまま寝ることが多かった

何枚もたばこの灰で穴が開いた上着

お酒もたばこもやめることが出来なかった

長い事ゴールドカードを保有していたのに車をぶつけた

帰省をした時、不衛生になってきていた

「お父ちゃん、ちゃんとせなあかんで」

「わかった、わかった」

こんな会話を繰り広げるだけで

限界と知っていたけど 認めるのが 見るのが怖かった

何もしなかった

ほどなくして、兄弟より父が施設に入る事になった、と聞かされた

 

 

「何キロものいかなごを作っては一人暮らしの娘に送ってくれた」

あの、せまい、せまい、不便な台所で

母を思い出しながら作るいかなごには、どんな思いが込められていたのだろう

母と会話していたのかな

「おかあちゃん、今年も作ったで」って言いながら

持て余す 孤独と闘いながら

息を吸うことが、何度も出来なくなる夜を過ごしながら

 

いつも、幸せは、その場では気が付けない

 

なんで捨ててしまったんだろう

頑張って食べたらよかったのに

甘い甘い 酒と醤油とみりんとしょうが

なんで、大切にできなかったのだろう

 

 

菜の花のきいろと桜色の町で下車した

北口か南口しかない出口で迷うことなく

父と娘が好きな白あんの御座候を片手に

父に会いに行く

 

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