冬の朝、乾燥した空気の中
絶え間なく蒸気が上がり、「ぶわっ」って感じで通勤途中のあたしに降り注ぐ
もち米の蒸した匂いが、お腹をくすぐり、脳を刺激し、イメージの中へと誘う
「ああ、美味しい」と
引っ越した先にあった
スカイツリーが見える場所にある小さな和菓子屋さん
透明なガラス窓越しに見える、陳列した塩大福をはじめとする和菓子たち
ショーケースの上にはおいなりさんと赤飯と山菜要りおこわ
自家製平餅に、お土産用お菓子のセット
平台に置かれたばんじゅう 少しだけ覗ける、奥の作業台
仕事帰り、暗くなった家路の途中でみたらし団子と蒸し饅頭を購入する
熱いほうじ茶と、コタツ、猫と新しく購入したミステリー小説が準備している黄色を基調とした部屋をイメージしながら帰路に着く
休日、晴れて暖かな日
河原沿いに向かう
ランニングの恋人たち、子供たちのサッカー、若者のスケートボード
おじさんの筋トレ、そんなものを見ながら食べるおいなりさん
優しい甘さとはこのことか
少しだけ、春の香りがする日差しとくっきり見える空気の中で
対岸にある拘置所と
この場所にある隔たりを
何が人生を分けたのか、と思う
誰かの感情に振り回されて、自分の感情と向き合って
それでも、何とか、生きている
生きる事に向き合う事が辛くなる時、彼ら、彼女らは、あの塀の中で何を感じているのだろうか
甘い、優しさを感じる事はあるのだろうか
ぼんやりと、感じながら、そこを離れる
あたしの日常は
仕事して、食事を作り、洗濯をして、掃除をする
生活を飾るためのお花を買い、新しい服を見る
薬局に行き、切れたラップと少しだけ安い価格の化粧水を買う
読み終えた本を棚に並べて、増えたそれに、頭悩ます
ニュースで悲劇を見て、ネットで嘘を見る
友人とどこかに行きたいね、と次の予定を決める
繰り返される日常に時折、つまづきながら
春を待っている
桜並木のあるこの場所で、朝早くおじさんが作っている、道明寺と本の感想を持って
あなたが来るのを待っている